収益物件の不動産管理信託における相続税の債務控除の留意点

 コスモス公園の管理ボランティアに行った帰り道、コスモス畑の中にスイカがはえているのを発見しました。

 季節外れなのに3cmほどの実がなっていました。

 ボランティアの方々が「根を掘って持って帰りなさい。」と勧めてくださったので、持って帰りました。

 子供達が喜んで庭に植えましたが・・・。

 多分枯れますね。糸島はもう寒いです。子供達の悲しむ顔が目に浮かんで悲しいです。

 どこまで、がんばれるか?がんばれ!すいか!

 

 さて、本題です。

 

 銀行さんや司法書士さんが、認知症等による資産の塩漬け対策として、収益物件の管理信託を組成されることがあります。

 本日は、この不動産管理信託と相続税の債務控除の関係性について述べたいと思います。

 →損益通算については、こちらhttps://www.kaneda-kaikei.net/2018/09/11/%E5%8F%8E%E7%9B%8A%E7%89%A9%E4%BB%B6%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E7%AE%A1%E7%90%86%E4%BF%A1%E8%A8%97%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%90%8D%E7%9B%8A%E9%80%9A%E7%AE%97%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%88%A9%E7%9B%8A/https://www.kaneda-kaikei.net/2018/09/11/%E5%8F%8E%E7%9B%8A%E7%89%A9%E4%BB%B6%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E7%AE%A1%E7%90%86%E4%BF%A1%E8%A8%97%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%90%8D%E7%9B%8A%E9%80%9A%E7%AE%97%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%88%A9%E7%9B%8A/

 

★銀行さんの営業手段の一部として勧められている?

 

 銀行さんやアパート建築業者さんが、「相続税対策にアパートを建てませんか?」というご提案を積極的にされています。

 しかし、土地所有者が認知症になってしまうと、この提案は無意味になります。

 土地所有者が認知症になると行為能力がなくなるため、「アパート建築の請負契約の締結」や「抵当権の設定」ができなくなり、土地は遊ばせておくしかなくなります。

 追加融資が必要となるような大規模修繕も難しくなります。

 また、土地や建物の賃貸契約の締結自体も難しくなりますので、不動産の管理そのものが難しくなります。

 店子さんが退去した後、次の店子が入れられないという事態も想定されます。

 

 このような問題点を回避するために、不動産管理信託が組成されることが増えました。

 収益物件を管理する受託者を設定すれば、所有者が認知症になっても、収益物件の建築・管理処分が行えるからです。ただし、受託者の設定は、所有者が認知症になる前である必要があります。

 

★債務控除の効果

 

 さて、本題の債務控除に入ります。

 債務控除とは、相続税の計算上、プラスの財産からマイナスの財産を引いて、差引の純資産部分=純粋な財産部分にのみ相続税を課税するという制度です。

  

 アパート等を建築する場合、アパートの固定資産税評価額は建築価額の5割~7割程度になると言われていますので、「アパートの建築価額✖5割~7割-アパートの建築価額に相当する借入金額=アパートの建築価額の3割~5割の債務超過」となります。この債務超過部分を活用して他の財産に課税される相続税を下げることがアパート建築による相続税対策のポイントです。

 

(アパート建築は、「アパート建築直後の債務超過幅を活用して預金や先祖伝来の土地について相続税が課税されるのを抑制する」一種の節税商品ということになります。節税商品とはいっても、アパート自体の収益性が約束されているわけではありませんので、建築後の現金収支には十分に注意が必要です。最終的に現金収支が0に収まるのであれば、相続税が下がった分だけ得です。しかし、所得税等の税引後現金収支がマイナスとなるアパートも多いですので、ミイラ取りにならないように最終的な収支予測だけは厳密に行う必要があります。)

 

 また、借入がお嫌いで現預金をたくさん持っていらっしゃる方は、借入をせずに現預金で建物を建てても同様の節税効果がえられます。アパートの評価額が現金や借入金の評価額より低いことが節税対策のポイントです。借入をすることがポイントではありません。

 

★信託における債務控除のリスク

 

 さて、このような債務控除ですが、信託で活用する場合には留意が必要です。

 債務控除を受けられる対象者に限定があるのです。

 相続税法13条では、債務控除の対象者を

「相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。)により財産を取得した者」と定めています。

 すなわち、包括受遺者か法定相続人でなければ債務控除を受けられないことになります。

 

 信託の魅力に、当初受益者死亡時の「第二次受益者の指定が自由自在にできる」点があげられます。

 これを活用し、「第二次受益者を孫」とする信託が多々計画されています。

 

 しかし、これは問題です。

 

 なぜなら、孫は代襲相続人か包括受遺者とならない限りは債務控除の対象者とはならないからです。

 結果的に、人的要件を満たさず、相続税の対策として建てたはずのアパートが全く相続税対策にならなかったというケースが想定されます。

 

(そもそも、孫が信託財産以外の財産を承継していないとすれば、債務超過幅は使い切れませんので節税効果はありません。債務控除枠を他の相続人に融通することはできないのです。この点を解決してあげる必要があります。)

 

★対応策は?

 

 対応策としては、信託財産の中に節税メリット部分=債務超過幅に見合う預金や先祖伝来の土地を組み込んでしまう方法があります。信託財産が若干の資産超過になるように工夫すれば、債務超過幅は損なく使い切れたことになります。

 また、孫に包括遺贈の遺言書(特定遺贈の遺言ではダメです)を残す方法もあるでしょう。

 

★債務が確実か否か?

 

 さらに、相続人が負う債務が「確実な債務であるか否か」は債務控除の適用において、重要な要素となります。

 信託法上、本来、受益者は「信託財産を超える債務を負うことはありません。」

 債務控除を受けるには、信託財産を超える債務を受益者が負うことを明確にする必要があります。

 具体的には、信託法48条各項に従って債務超過部分の債務を受益者が支払うことを明確にしたり、受益者を信託内の債務の連帯保証人にする等の工夫を行って、初めて「確実な債務」になるのだろうと考えます。

 債務自体を信託から切り離し、被相続人の固有の債務としておく方法も考えられます。

 いずれにせよ、債務控除を得られるコンディションを整える必要があると考えます。

 

★安易な信託組成に走らず、必ずタックスチェックを!

 

 最後に、最近、多くの仕業様が信託に参入しておられますが、税務知識は十分でしょうか?

 委託者=受益者なら贈与税はかからない・・・という知識の次の知識が信託組成には必要なのだろうなあ・・・と感じる今日この頃です。

 ぜひ、タックスチェックご利用ください。

 

執筆:公認会計士・米国公認会計士・税理士 金田充弘