収益物件の不動産管理信託に関する損益通算の特例

 本日は、地元のコスモス畑の維持管理ボランティアに行って来ました。

 若者には、地元の皆様からの協力要請も多く、お応えできる時には参加するようにしています。

 涼しくなったとはいえ、まだまだ暑く、4時間の草むしりは大変でした。

 

 さて、本日は、不動産管理信託に関する損益通算の不利益について記載したいと思います。

 →債務控除についてはこちら

 

★信託の損益通算と節税封じ! 

 

 租税特別措置法第四一条の四の二に「所得税の特定組合員等の不動産所得に係る損益通算等の特例」、租税特別措置法第六七条の一二に「法人税の組合事業等による損失がある場合の課税の特例」という条文があります。

 

 この条文は、もともと、航空機リース(航空機の減価償却費を早期計上し、所得税・法人税を節税する節税商品。契約初期には損失が生じ、契約後期には利益が生じる設定になっている。)による節税を封じるために設けられたといわれています。

 

 組合事業・信託業務に積極的に参加していない組合員・受益者には、組合事業・信託財産から生じた損失を「他の所得と通算することを認めない」というルールです。このルールはアメリカにも存在します。

 

★家族信託では「信託組成の障害」となるケースも

 

 家族信託・民事信託において、当該ルールが影響してくる場面としては、次のような状況が考えられます。

 

①空室率の大きい不動産賃貸物件を信託するとき

②減価償却費の大きい不動産賃貸物件を信託するとき

③大規模修繕等が予定されており、単年度赤字が予定される不動産賃貸物件を信託するとき

④地震・火災等で大きな赤字が発生したとき

 

①②は、申告書の閲覧等で信託組成前から予見可能ですが、③④については予見が難しく注意が必要です。

信託を組んだ後に、これらの事態が発生し受益者からクレームを受けることがないように十分にリスク管理をされてください。

 

「大規模修繕を対象とした融資のために信託を組む!」といったケースでは、「③大規模修繕による赤字」も予見できるのかもしれません。

 銀行さんや司法書士さんには十分に注意をしていただきたいところです。

 

★具体的なルールとは?

 

 具体的なルールについては、次のとおりです。

 

(個人の場合)

 受益者が個人の場合は、不動産所得に関する信託から発生する損失は「信託外で発生する所得とは通算できず」消滅します。

 繰越も不可能です。

 不動産所得以外の所得については、当該条文の縛りは及びませんが、信託による所得の多くは受動的な所得となるものと思われますので「雑所得」に分類される可能性が高く、結果的に、他の所得と通算できなくなる可能性が高いです。

 

(法人の場合)

 受益者が法人のケースでは、(誤解を恐れず単純に記載すると)信託財産の簿価純資産額(調整出資等金額)を超える損失は損金不算入となります。言い換えると、信託が債務超過になった場合「債務超過部分については損金不算入の規制がかかる」ことになります。

 具体的には、信託財産の簿価純資産(調整出資等金額)が1億円である場合には、1億円までは無条件に損金算入可能ですが、それを超える損失は損金不算入となります。1億円を超える損失が出た場合、信託が債務超過になってしまうからです。

 また、損金不算入となった金額については、翌期以降無制限に繰り越せます。

 

〇信託法上、信託の受益者は「信託財産を超える債務を負担することはない=負の受益権は存在しない」ため信託財産の簿価純資産額(調整出資等金額)を超える損失は「受益者が負担するはずがない」のだから「損金に算入する必要性がない」というのが立法趣旨です。ある意味、あたりまえの規制と言えます。

 

〇別途、損失補てん契約がある場合には、損失補てんされる部分については損金算入されません。 

 

(法人の場合の例外)

 ただし、受益者が「負の受益権を持ち得る場合=簿価純資産を超える債務を負担する場合」には、例外的に簿価純資産額を超える損失が損金算入可能となるケースがあります。

 具体的には、信託法48条各項に従って、受託者が負った損失を受益者が補填する契約や合意を別途結んでいる場合には、受益者は受益権の価値以上の損失を負う可能性があります。

 例えば、不動産管理信託の受託者が信託財産5000万円からビルの撤去費用6000万円を支払ったケースを想定します。受託者は、信託財産を超過してビルの撤去費用を1000万円負担しますが、この1000万円を受益者が信託法48条各項にしたがって肩代わりした場合には、当然に当該負担金額については、受益者側で損金算入が可能となります。

 受益者が負の受益権を許容する極めて例外的場面では、損金算入が可能となるのです。

 

(調整出資等金額の計算方法の概略)

 簿価純資産(調整出資等金額)=出資した金銭の額+出資した資産の価額+各期の所得金額(不課税所得を要調整)-分配額≒信託に帰属する資産-信託に帰属する負債

 となります。

 よって、「債務超過になった信託では法人税の損金算入の規制を受ける」と考えると理解が簡単です。

 

★まとめ

 

 当該条文は、信託組成に関与する専門家全般に理解が難しいものと思われます。

 リスクが発生しやすい場面を4つあげましたので、最低限4項目だけは確認されることをお勧めします。

 そして、何より、タックスチェックを必ず受けられてください!

 

以下は、おまけです。

 

(信託内に複数の物件があり、1つの物件が赤字、他の物件が黒字の場合)

 立法趣旨ならびに調整出資等金額の算出過程を定めた政令等の記載内容等を斟酌すると、複数の物件が一つの信託内にまとめられている場合には、信託内の複数の不動産間の利益と損失を通算することは可能であると考えます。

 立法趣旨は、あくまでも航空機リース等による節税・租税回避行為を防止することにあります。

 航空機リース契約の中に、複数の航空機が含まれていて、一方で黒字、他方が赤字で損益通算したとしても、節税商品の節税効果が減殺されるだけで、課税上は何の弊害もないため、信託内の複数物件間の損益通算を防止する政策上の必要性がないためです。

 

(複数の信託があり、一つの信託は赤字、他は黒字の場合)

 立法趣旨からして、異なる信託間での損益通算は不可能であると考えます。

 租税回避の可能性が残るからです。

 

(信託組成前の収益物件から出た黒字と信託組成後の同一の収益物件から出た赤字の通算)

 論ずるまでもなく、当然に損益通算は不可能となります。

 信託組成目的が、大規模修繕を目的とした融資を受けるために信託を組成するといった案件の場合、信託組成後に修繕費が過大となり、信託が単年度赤字を出すことがあります。

 例えば、11月に信託を組成し、11月~12月に大規模修繕を実施、結果、大赤字が発生した場合、11月~12月に発生した赤字は信託内赤字ということで消滅します。しかし、1月~信託組成時点である10月までの不動産所得の黒字は残存します。

 よって、物件を通年で見れば利益は出ていないのに、1月から10月までの所得には所得税が課されるというケースが考えられます!

 十分に注意されてください。

 

(信託における所得の計算期間)

 所得税基本通達・法人税法基本通達に次のような規定があります。

 

(信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属の時期)

13-2 受益者等課税信託の信託財産に帰せられる収益及び費用は、当該信託行為に定める信託の計算期間にかかわらず、当該信託の受益者のその年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入することに留意する。(平19課個2-11、課資3-1、課法9-5、課審4-26追加)

 

(信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属の時期)

14-4-2 法人が受益者等課税信託の受益者(法第12条第2項《信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属》の規定により、同条第1項に規定する受益者とみなされる者を含む。以下14-4-6までにおいて「受益者等」という。)である場合において、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該受益者等である当該法人の収益及び費用とみなされる当該受益者等課税信託の信託財産に帰せられる収益及び費用は、その信託行為に定める信託の計算期間にかかわらず、当該法人の各事業年度の期間に対応する収益及び費用となるのであるから、留意する。(平19年課法2-5「八」により追加)

 

⇒よって、信託の計算期間に関わらず、個人は年で、法人は法人の事業年度に合わせて所得計算は行いますので、ご注意ください。

 

執筆:公認会計士・米国公認会計士・税理士 金田充弘